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名古屋地方裁判所 昭和52年(ヨ)1941号

申請人

遠藤隆雄

上之孝二

窪田茂伸

嶋慶一

都築則行

右申請人ら代理人

小栗孝夫

(ほか三名)

被申請人

ニチバン株式会社

右代表者代表取締役

小林幸雄

右被申請人代理人

杉山忠三

西本恭彦

主文

一、申請人遠藤隆雄、同上之孝二が勤務場所を被申請人安城工場製造課とする労働契約上の地位を有することを仮に定める。

二、申請人窪田茂伸、同嶋慶一、同都築則行の申請は、いずれも却下する。

三、申請費用中、申請人遠藤隆雄、同上之孝二と被申請人との間に生じた分は、被申請人の負担とし、その余の申請人らと被申請人との間に生じた分は、右申請人らの負担とする。

理由

一、本件仮処分申請の趣旨及び理由は別紙その一のとおりである。

二、よって、按ずるに疎明資料によれば、次の事実が認められる。

(一)  会社は、昭和九年一二月設立にかかる資本金一八億円の株式会社で、昭和五二年一二月現在従業員約一〇四二名、本社の外に三工場、一三支店、一出張所を有し、絆創膏類等の薬品、粘着テープ類の製造販売を業としている。

三工場の内安城工場は、セロテープの専業工場で、従業員約二七八名を有し、昭和四二年四月から稼働を開始している。

(二)  申請人らは、いずれも安城工場の従業員であり、昭和五二年一二月二〇日現在の職場は、申請人ら主張のとおりである。また申請人らは、組合安城支部所属の組合員で、申請人遠藤は、支部書記長、同上之は支部執行委員、同嶋は、中央委員兼支部調査部長、同都築は、支部組織部長(調査、組織部長は支部書記局内の役職)である。

(三)  本件配転命令

会社は、昭和五二年一二月八日組合安城支部に対し別紙その二(略)の内示者及び転勤先欄記載のとおりの配転者名簿を提示すると共に、個別的に配転の内示をなし、右配転を承諾しない申請人らに対し、同月二〇日右名簿記載のとおりの本件配転命令を発し、かつ、申請人上之、同窪田、同嶋、同遠藤に対しては、新業務の基礎教育のため、暫定的に(約二カ月)名古屋支店長付として名古屋支店に勤務すべき旨を命じた。

配転先の新職務は、後記会社の拡販対策の一環として小売店、ユーザー等に対するセールス活動に従事する販売員(給与規定上は事務職群の販売)であり、鹿児島出張所は、福岡支店内において鹿児島市に新設される出張所である。

三、本件配転命令の効力

(一)  労働契約違反の存否

(1)  疎明資料によれば、次の事実が認められる。

会社就業規則四五条は「会社は、必要があるときは、従業員に対し、出張、転勤、出向または職場の変更を命ずることがある。この場合正当な理由がないときは、これを拒むことができない」旨規定している。

会社は、昭和三八年以来賃金体系上職階職務給制度を採用しており、給与規定によれば、基本給は、職務給、職務加給、年功加給の三種からなり、職務給は、職種職給に応じた職群等級別職務給表が適用され、右表によれば、職群は、作業職、事務職、技術職、特務A、B職、管理職に区分され、更らに、管理職を除くその余の右各職群は、三ないし一三に区分されている。たとえば、作業職群は、仕上、巻取、カッター、ゴム練、加工、攪拌、展布、溶剤展布、溶剤回収、合成、検査、保管、作業監督に、事務職群は、資材、販売、宣伝、計算、書記に各区分されている。

しかし、就業規則上は、これら職種の規定は一切存しない。また、作業職、技術職、事務職の職務給表上の賃金格差は、組合からの賃金の平均化、同一化の要請等のため昭和四八年以降なくなり、同一賃金になっている。

申請人らは、入社時に、会社との間に労働契約書を締結しているが、右契約書には、職種の指定はなく、単に就業規則その他の諸規則に定める労働条件により就業する旨の記載がある。

申請人遠藤は、鹿児島県立種ケ島実業高校農業科卒で、昭和三一年三月会社に中途採用者として入社し、東京工場(現在の埼玉工場)に勤務し、作業職中の溶剤展布係をしていたが、昭和四二年七月安城工場に配転され、現在作業職中カッター係として製造課三係統括班に所属している。

申請人上之は、長崎県立高島高校普通科卒で昭和四五年八月一日中途採用者として入社し、安城工場に勤務し、作業職中溶剤展布係として製造課二係に、ついでゴム練、攪拌係として同課一係に所属し、現在に至っている。

申請人窪田は、熊本県立水俣工業高校機械科卒で、昭和四三年四月中途採用者として入社し、安城工場に勤務し、作業職中攪拌、溶剤展布、選別の各係を経て現在溶剤展布係として製造課二係に所属している。

申請人嶋は、長崎商業短大(夜間)を中退し、昭和四六年二月中途採用者として入社し、安城工場に勤務し、作業職中裁断係として製造課三係についで溶剤展布係として同課二係に所属し、現在に至っている。

申請人都築は、愛知県立西尾実業高校繊維化学科卒で昭和四六年一月に中途採用者として入社し、安城工場に勤務し、作業職中溶剤展布係として製造課二係に所属し、現在に至っている。

なお、申請人らは、いずれも本社採用社員ではなく、いわゆる事業所採用社員(採用決定権者は工場長)である。

(2)  以上に認定した事実によれば、申請人らは、入社以来給与規定上作業職に属し、現場作業を担当して来たことは明らかであるが、就業規則上は、別段作業職という職種はないことと、入社時の労働契約書からすれば、申請人らが、入社に際し、作業職という職種を特定して労働契約を結んだものとは認められないから、申請人らは、就業規則上職種、職場の変更権を会社に委ねているものと解される。

しかし、申請人らの殆んどが高校の技術科を卒業していること、入社以来一貫して給与規定上作業職として現場作業を担当していること及びいわゆる本社採用者でなく、事業所採用者であることからすれば、特別事情なき限りは、安城工場における作業職としての稼働が労使間に予定されているものというべく、このような申請人らに対し、職種、職場の変更を伴う配転命令を発するについては、それが申請人らの生活関係に重大な影響を与える点にかんがみ、労使の信義則に照らし、当然に合理的制約が存し、その制約とは、業務上の必要性、配転基準の合理性、人選の妥当性の有無ないし、業務上の必要性の程度と、申請人らの生活関係に及ぼす影響の程度との比較較量により判断さるべきであり、この合理的制約をこえると認められる配転命令は、労働契約上会社に委ねられた人事権のらん用として無効というべきである。

(二)  協定違反の存否及び労組法七条一号三号違反の存否

(1)  疎明資料によれば、次の事実が認められる。

昭和四九年七月二六日労使間に「配転転勤に関し中央労協(中央における労使協議会)の確認に基づき、会社は、該当者に打診程度にとどめ、労使協議し、まとまった後覚書を交わし辞令を出すものとす」との覚書(<証拠略>、以下七・二六覚書という)が暫定措置として締結されている。

右覚書は、配転に関する労使協定としては最初のものであり、その趣旨は文言自体からすれば、配転に対する組合の事前における共同決定権を認めたものであり、これに即応し、配転の実際は次のようになされていた。即ち、会社は、組合に対し配転者名、転勤先、配転条件を記載した申入書を提示し、組合は、これに基づいて配転該当者に面接し、諾否、希望等を聴取し、一方会社は、職制を通じ配転該当者に意向を打診し説得を行い、しかる後、組合、会社が協議し、該当者の異議、苦情の解決、人選の変更等を行い、協議が成立すると、該当者の応諾の意思表示をまって会社と組合で覚書を作成し、発令する。

右覚書と同日付で申請人ら主張のとおりの事前協議協定(<証拠略>)が結ばれたが、右協定は、昭和五二年七月二六日を以って協定期間満了により失効した。

ついで、昭和五二年一月二九日労使間に申請人ら主張のとおりの会社再建協定(期間昭和五四年末まで)が成立したが、同日付で締結された配転に関する覚書(<証拠略>、以下一・二九覚書という)中に「配転、転勤については、七・二六覚書及びそれによる労使慣行に則り実施するものとする。当面の配転、転勤については、会社提案に基づき実質的解決の方向で会社組合は早急に協議する」旨の条項が存する。

右条項は七・二六覚書を再確認したものであり、右条項にいう当面の配転とは、従来の経営赤字克服策として、かつは、再建協定において組合に約した完全雇用(希望退職を含め整理解雇は一切しない)条項履行のため、会社が、昭和五一年一〇月二三日付で発表した新経営改善計画(その詳細は後述)の一環としてなされた一次配転を指すものである。

右一次配転は、全社的に間接部門から約七〇名を販売部門に配転するもので、これは、既に実施を了している。

本件配転は、昭和五二年一二月実施の第二次配転計画に基づくものであり、これは、全社的に工場の製造部門を中心に約七〇名を販売部門に配転するというもので、さらに今後第三次配転計画として昭和五三年五月ごろ、工場製造部門を中心として間接部門も含め約四〇名を販売部門に配転する計画が立てられている。

ところで、右二次配転について、労使間に、昭和五二年一一月三〇日付で覚書(<証拠略>、以下一一・三〇覚書という)が締結されたが、右覚書中には「配転問題については、従来のやり方に考慮を払い、個々人への説明は職制が行ない、組合を通じての苦情申立があれば、会社は誠意をもって労使協議し解決に当る」との条項が存し、これを受けて、安城工場長と組合安城支部との間に、安城工場における配転は右覚書に基づいて実施する旨の覚書が結ばれている。

昭和五二年一二月一日の安城工場、組合支部間の労使交渉において、組合は、「従来の労使慣行どおり中央執行委員、支部三役の転勤は認めない。中央委員、支部執行委員等の組合役員の配転については、組合運営に支障が生じないよう配慮されたい」旨の申入をなした(従来中央執行委員と支部三役は配転の対象から除外されていた)。

ついで、同年一二月八日、労使間で、配転人員、安城工場における配転後の各職場定員について基本的合意が成立し、同日会社から組合支部に対し別紙その二記載のとおりの前記配転者名簿が提示され、会社は、同時に配転該当者にその旨内示した。配転内示者の内一二名は一二月一一日までに会社及び組合に対し配転を応諾する旨述べ、会社は一二日付を以って内諾者一二名の配転を正式に発令した。

残る一三名の配転内示者は、配転を応諾せず、労使協議が再三に亘りなされたが不調となり、一二月二〇日、会社は、一名の退職予定者を除き、また一名の配転先を京都支店から名古屋支店に変更し、他は名簿記載どおりとして正式に配転を発令し、同月二二日までに名古屋支店に勤務すべき旨を命じた。

これより先、一二月九日の労使協議において、組合から、配転者中に組合役員が相当数含まれていること、及び販売適性のない者も含まれていることを理由に配転希望者を募集するか、配転人員を減少させるかして善処されたい旨申入がなされたが、会社は、今次配転は、安城工場男子従業員全員が対象者であり、一〇月三一日から約一週間に亘り職制を通じてなした予備調査(個別的身上調査)の結果をもとに、販売適性と共に出身地を最重視した結果の人選であり、右人選に誤りないと答え、組合の申入を拒否し、このような協議が数日間に亘って行われたが、両者の主張は平行線をたどり遂に前記のとおり不調となった。

右発令者一二名中五名(一名は自己都合により退職一名は住宅売却まで従前の職場に残留)は、右配転に応じ名古屋支店に赴任したが、申請人らは、右配転を拒否した。

(2)  以上に認定した事実によれば、配転に関する労使協定は、当初七・二六覚書及びこれを確認した一・二九覚書が存し、これら覚書ないし、これに基づく配転の実際は、組合に対し事前における共同決定権を認めたものであり、「労使協議成立後にその旨の覚書を作成し、発令する」との覚書文言に照らすと、いわゆる人事同意約款と認められる。

ところが、一一・三〇覚書は、その文言自体から考えると、協議協定ではあるがこのような意味での共同決定権の明示がない点において異なっている。

然し、たとえ一一・三〇覚書が組合に対し共同決定権を認めたものでないとしても、右覚書は、従前の七・二六覚書及びこれに基づいて実施されて来た労使慣行を尊重し、誠意を以って労使が協議することを定めたものであるから、右協議において、会社は、組合に対し人選が客観的に見て正当である理由を詳細に説明し、若し、組合の意見、要求が客観的に正当であると認めるときは、これを尊重し、人選を修正するなどして、協議をつくす義務があり、いやしくも自己の見解を一方的に押しつけるような態度方法では協議をつくしたことにならないと解するのが相当であり、この理は組合側にとっても同様である。

そこで問題は、労使協議において組合に説明された会社の人選理由の妥当性の存否である。

若し、右人選理由に客観的に見て合理性が認められず、あるいは、組合の運営に著しい支障を生じ労組法七条三号に該当する、若しくは組合活動の故をもってなされた不利益取扱いとして同条一号に該当すると認められるのに、会社が独善的一方的に組合の配転撤回要求を拒否したと認められるときは、会社は信義則に従った協議義務をつくしていないものとして協定違反の責を免れず、これは労働協約違反として本件配転命令を無効ならしめると考える。

従って、協定違反の有無は、帰するところ、会社のした人選の妥当性ないし組合の運営に対する支障の有無ないしその程度等により決せられることになる道理である。

(三)  会社の業務上の必要性の存否、人選基準の合理性と人選の妥当性、組合の運営に対する支障の有無及びその程度等

(1)  疎明資料によれば、次の事実が認められる。

(イ) 会社は、各種テープの総合メーカーとして、特に主力製品であるセロハン粘着テープ及び絆創膏類については業界のトップクラスを占めていたが、昭和四〇年後半に至り市場における競争の激化に伴い次第に業績が鈍化し始め、昭和四七年下期に戦後始めて赤字を計上し、景気の上昇に伴い一時好転したものの不況のため、昭和四九年下期には、五億八七〇〇万円の経営赤字を計上するに至った。昭和四七年から昭和五一年までの業績の推移は別紙その三(略)記載のとおりである。

会社は、この深刻な不況克服策として、昭和五〇年二月の一次合理化計画において希望退職の方法により約五五七名の人員を縮少した。

ついで昭和五一年から昭和五三年までの間に赤字を一掃することを目標に大阪工場の閉鎖、敷地売却を骨子とする二次合理化計画を立案したが、訴外大鵬薬品の資本参加を得て大阪工場の閉鎖、敷地売却を中止し、ここに昭和五一年一〇月二三日付で三次合理化計画(前記新経営改善計画)を立案実行するに至った。この計画は、生産部門から販売部門に従業員を大幅に配転することにより、生産現場の人員を縮少し、生産コストを下げると共に、販売部門を強化充実し、小売店、ユーザー等に対するセール活動を活溌化し、売上高を半期で一〇%増とするというものであった。

昭和五一年一一月下旬ごろから、五二年一月中旬にかけて労使紛争による争議のため、約九億円の生産減となったが、同年一月に労使間に前記再建協定が締結され、土曜操業による生産減の回復、一次配転による販売員約七〇名の増強等により三次合理化計画は軌道に乗るに至った。

昭和五二年上半期は、目標とする九七億円の売上高に対し九二億円を売上げ九五%の達成率を示したが、同年下半期の売上目標一〇三億に対し、売上げは八二・六億円で七六%の達成率となり経常利益で七・四五億円の赤字を計上するに至り、金融機関からの資金繰りも悪化し、昭和五三年上半期以降の見透しは予断を許さぬ状勢となった。

(ロ) このような状勢下において、会社は、昭和五二年一〇月再建計画策定委員会を発足させ検討の上、同年一一月二八日四次合理化計画を決定したが、これは、三次合理化計画を骨子として、生産部門から販売部門への配転に関する具体的計画であり、その内容は一次配転を含めて次のとおりである。

(一次配転)昭和五二年二月実施済み、全社的に一二〇名の配転、間接部門から七〇名を販売部門に配転、これによる人員構成は、全社的に見ると、生産部門約六三〇名、販売部門約三三〇名(セールスマンは約二二〇名)、本社管理部門約一一〇名。

(二次配転)今次配転、昭和五二年実施、工場の製造部門を中心に全社で約七〇名を販売部門に配転。

(三次配転)昭和五三年五月実施予定、工場製造部門を中心に、間接部門を含めて約四〇名を販売部門に配転。二次、三次配転による人員構成は、生産部門約五〇〇名、販売部門約四六〇名、本社管理部門約一二〇名となる。

(配転要員たる余剰人員の捻出方法)

一次配転においては、間接部門の統廃合や事務の合理化による。

二次配転においては、従来の一日七時間労働を一時間延長し(この件については、現在東京地裁で労使紛争が係属中)、交替職場における四班三直二交替休憩制を、三班三直三交替休憩制にあらためる(この件は組合も同意)。

三次配転は、作業工程の合理化、省人化、間接部門の統廃合による。以上のとおりであった。

(ハ) 安城工場における二次配転要員の人選

配転人員を最終的には二五名と決定し(埼玉工場二九名、大阪工場一六名)、安城工場の生産部門に在籍する男子従業員一五八名の中から、当面生産に不可欠とされる技能習熟者(班長、副長、いわゆるリーダー、サブリーダー)約五〇名、夫婦共働きの者(配偶者の社外勤務者及び近く社内結婚を予定している者を含む)二五名、身体障害者二名、傷病療養者二名、農漁業を兼業する者一九名、家庭において老人を扶養している者五名、中高年令者四名以上の約一〇〇余名を除外し、その余の約五〇名から二五名を人選した。

人選基準は(一)販売部門を希望する者、(二)既設支店及び新設出張所の周辺出身者(三)販売業務の適性ないしその可能性を有するもの(四)単身赴任の可能なもの以上であった。

右基準による人選の予備調査のため、会社は三工場一斉に個別に面接調査をした。安城工場では、昭和五二年一〇月末から約一週間に亘って男子従業員全員を対象に係長を中心とする職制による面接が行われた。

会社は、右人選基準に基づき、前記予備調査を資料として二五名の人選をした。

(ニ) 申請人らの個別的人選理由

(申請人上之)

人選理由 性格は内気であるが、職場委員を二年勤めていること等から考えて対人折衝能力は十分にあり、販売適性がある。

また、長崎県出身で鹿児島弁を解し、両親は鹿児島県に在住している。単身赴任が可能であり、車の運転免許がなくともセールス活動は十分可能である。特に鹿児島弁を解することは鹿児島出張所要員として最適任者である。

本人の苦情理由 確かに鹿児島県で出生し、両親は鹿児島県に在住し、日常会話程度の鹿児島弁を解することはできるが話すことはできず、車の運転免許はなく、性格上対人折衝は不得手でセールスマンとしての適性は全然なく、生産現場に残留を強く希望し、どうしてもセールス活動をしなければならないなら退職する外はない。

(申請人窪田)

人選理由 熊本県水俣の出身、長男で両親は水俣市に居住している。予備調査において、同人は、いずれは実家に帰って両親を扶養するつもりと述べており、単身赴任できる。同人の右個人的家庭事情に加えて、同人は鹿児島出張所近辺の出身であり、販売適性ないしその可能性は十分ある。

本人の苦情理由 個人的事情は、右のとおりであるが、販売適性がなく、安城工場の生産現場で稼働すべく入社したのであるから、配転には応ぜられない。

(申請人嶋慶一)

人選理由 長崎県出身、長崎商業短大中退、両親は、長崎県で青果業自営明朗な性格で販売適性あり、福岡支店勤務に最適である。中央委員の地位は、代替可能で組合の運営にさして支障を来たすとは認められない。

本人の苦情理由 配転に応ずれば中央委員を辞任せざるを得ず、組合運営上著しい支障を来たす。今次配転は、組合弱体化を意図したものであり、販売適性もないから、配転には応ぜられない。

(申請人都築)

人選理由 安城市出身で、販売適性は十分にある。昭和五二年九月、一〇月、一一月に二回に亘って実施した名古屋支店における応援販売活動の実績はこれを裏づける。現在安城市で両親、兄夫婦、妹と同居しており、予備調査において自宅から通勤可能地域の配転を希望しており、名古屋支店は十分通勤可能である。

本人の苦情理由 現在支部組織部長をしており、後記団結署名者で中心的組合活動家であるから、配転は組合活動上支障がある。安城市の自宅から名古屋支店に通勤するには、名鉄、国鉄いずれを利用するとしても通勤時間は一時間半以上かかり通勤は精神的にも肉体的にも苦痛が大であるから配転に応ぜられない。

(申請人遠藤)

人選理由 鹿児島県西之表市(種子島)の出身、明朗にして協調性あり、応援販売活動の実績も良好で販売適性は十分ある。長男で妻子がいるが、両親は郷里に在住し、予備調査においては、いずれは両親と同居する予定であると述べており、鹿児島出張所の最適任者である。支部二役(支部長、副支部長)が配転されていないのであるから、書記長の配転は組合の運営にさしたる支障は生じないと考える。

本人の苦情理由 書記長を配転するのは、従来の労使慣行に反し、組合の運営に著しい支障を来たすから配転には応ぜられない。

(労使協議における組合の主張、見解)

申請人らの中には、販売適性に欠けるものがあり、かつ申請人窪田を除いては、書記長、中央委員、執行委員、書記局部長であり、申請人らの配転は、組合の運営に著しい支障を来たす。また、申請人らは、団結確認署名者であり、中心的組合活動家であり、本件配転は、不当労働行為である。

(2)  以上に認定した事実によれば、会社のした今次配転は、経営不況下にありながら、再建協定により完全雇用を組合に約した会社が、生産現場の人員を縮少し、余剰人員を販売部門に向けることにより生産コストの減少と、かねて販売利益の拡大を企図し、組合とも協議の上決定した四次合理化計画の一環としてなされたもので、誠にやむを得ない緊急の業務上の必要性に基づくものであり、人選基準も十分に合理性が認められ、かつ、申請人らは、いずれも配転先近辺の出身で、いわゆる地域の特性を十分に理解している筈であり、加えて申請人らの個人的家庭事情も十分に考慮されていることが認められるから、残る問題は、販売適性ないしその可能性の存否と組合運営上の支障の有無ないしその程度である。

(販売適性について)

疎明資料特に申請人ら審尋の結果によれば、申請人上之を除くその余の申請人については、販売適性ないしその可能性の存することが認められるが、申請人上之については、性格が内気で対人的折衝が不得手であり、加えて本人は販売部門でセールス活動をする意欲が全くなく、強いて配転されれば、退職せざるを得ないと覚悟していることが認められ、他方疎明資料によれば、鹿児島出張所における新職務の内容は、その目標を、代理店システムを尊重しつつも最終消費者に近いところで需要の拡大、市場の情報を収集し、以って末端の販売網を拡大すること(いわゆる市場深耕作戦)に置き、具体的には勤務時間中主として小売店ないし販売代理店を直接訪問してセールス活動に従事するいわゆるセールスマンであり、昭和五二年一一月二八日付の会社の中期経営計画によれば、各出張所毎に売上目標を設定し、各販売員毎にノルマを設定するというものであることが認められるから、申請人上之がこのような新職務に従事することは著しく苦痛であろうことは容易に推認できるから、いかに同人が鹿児島県の出身で鹿児島弁を解するとしても、同人の性格適性を無視した本件配転は人選の妥当性を著しく欠くというべきである。

(組合運営上の支障の有無について)

書記長である申請人遠藤

疎明資料によれば、従来労使間に中央執行委員及び支部三役は配転の対象としない旨の労使慣行が存したこと、及び同申請人は、元中央執行委員の経歴もあり、支部組合の書記長として中心的活動家であり、同人が配転されるときは、その後任の補充が困難であり、支部組合の運営に著しい支障を生ずること、組合は、これを理由に当初から同人の配転に反対して来たことが認められ、右事実からすれば、同人の本件配転は、個人的家庭事情及び、販売適性については妥当と言えても、従前の労使慣行に反し、かつ組合運営に著しい支障を与える点において相当性を欠き労組法七条三号に該当するというべきである(会社の支配介入意思は、右認定事実から容易に推認することができる)。

中央委員である申請人嶋

疎明資料によれば、中央委員は、執行機関である中央執行委員会とは別に存する大会に次ぐ組合の決議機関である中央委員会の構成員であり、右委員会は、中央執行委員会をもその構成員として、中央執行委員会の緊急事項の処理等について審議することとされ、定員一六名、安城工場は内四名であり、前記東京地裁への提訴も右委員会の議決するところであった。以上の事実が認められ、右事実からすれば、中央委員は重要な職務であることは明らかであるが、従来中央委員を配転の対象から除外する旨の労使慣行が存したとの疎明、ないし中央委員が、中央執行委員ないし支部三役と同格若しくはそれ以上に重要な地位である旨の疎明及び後任の補充が困難である旨の疎明が十分でないから、中央委員である嶋に対する本件配転命令が組合の運営に著しい支障を生じさせるとまでは認められない。従って同人の配転は労組法七条三号には該当しない。

執行委員ないし書記局内の部長であるその余の申請人

右申請人らの配転命令についても、右と同様の理由により組合の運営に著しい支障を生じさせるものとは認められず、労組法七条三号には該当しない。

もっとも、疎明資料によれば昭和五二年九月会社が前記のとおり一日の労働時間を七時間から八時間に延長したことに対し、組合は、東京地裁に仮処分申請をなすに至ったが、そのころ、会社は、全従業員を対象として、「会社の再建に協力することを誓う」趣旨の誓約書の署名を求める署名活動を始めた。組合は会社の右所為は、不当労働行為なりとして組合員に対し署名拒否の指令を出すと共に同年九月下旬埼玉、愛知、大阪の各地労委に会社を相手取り、右署名活動の中止を求めて救済命令申立をなした。申請人らはいずれも右署名の拒否者である。同年一一月下旬ごろ、安城工場において組合員の中に「安工新しい流れの会」と称するグループが、ついで他の工場でも同様のグループが発足したが、このグループは、現行組合路線を批判し、労使協調路線を是とする立場から会社とは別箇に組合員を対象に同趣旨の署名活動を開始するに至った。組合は、これら会社及び組合内部の署名活動に対する対抗策、組織防衛策として、団結確認の署名活動を始め、申請人らはいずれもこの署名者である。この署名を拒否した者(前記グループ及びその同調者)に対し組合は脱退勧告を行うと共に、組合員としての権利を認めないため、これらの者(約四〇〇余名)と組合との間に現在組合員としての権利をめぐって裁判上の紛争が係属中である。以上の事実が認められる。

右事実によれば、申請人らは、団結確認署名者にして、誓約書署名拒否者であることが認められるけれども、本件全疎明によるも本件各配転命令がこのことを理由にしてなされた不利益取扱とは認められない。

これを要するに、申請人遠藤に対する本件配転命令は組合の運営に著しい支障を来たすものとして労組法七条三号に該当するが、その余の申請人に対する本件配転命令は、組合の運営に著しい支障を来たすとも、団結署名者に対する不利益取扱いとも認められないから労組法七条一号三号には該当しない。

(3)  結論的判断

以上に説示したところからすれば、申請人上之に対する本件配転命令は同人の性格適性を無視している点において人選の妥当性を欠き、労働契約上会社に委ねられた人事権を濫用するものであり、かつ、労使協議においてこのような人選を会社が固執し、組合及び本人の正当な要求を拒否したものとして、誠実な協議をつくしたとは言えず一一・三〇覚書による労働協約に反するものとして無効というべく、申請人遠藤に対する本件配転命令は、組合の運営に著しい支障を生ずるものとして労組法七条一号三号にいう支配介入行為に該当し、かつ前同様の理由で会社が誠実な協議をつくしたものとは言えず協約違反として無効というべきであるが、その余の申請人らに対する本件配転命令は、いずれも人選の妥当性が認められ、労働契約上会社に委ねられた人事権の合理的範囲内のものであり、かつ、労組法七条一号三号に該当するとは認められず、従って、労使の協議不調の責を会社に負わせるわけにはいかないから、一一・三〇覚書による協議義務を会社はつくしたものというべく、協約違反とも認められず、有効と解する。

四、以上の次第であるから、申請人遠藤、同上之に対する本件配転命令は無効であるから、右申請人らは、いぜんとして従前の職場である安城工場製造課(三係、一係)を就労場所とする労働契約上の地位を有していると認められ、かつ右地位を早急に保全する必要性が大であることが疎明されるから右申請人らの本件各仮処分申請は正当として認容し、その余の申請人らの本件各仮処分申請は理由がないから却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本武 裁判官 戸塚正二 裁判官 林道春)

別紙その一

申請の趣旨

一、申請人遠藤隆雄が被申請人に対し安城工場製造課第三係裁断(統括班)担当の作業職としての労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二、申請人上之孝二が被申請人に対し、安城工場製造課第一係ゴム練攪拌担当の作業職としての労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

三、申請人窪田茂伸が被申請人に対し安城工場製造課第二係溶剤展布担当の作業職としての労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

四、申請人嶋慶一が被申請人に対し安城工場製造課第二係溶剤展布担当の作業職としての労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

五、申請人都築則行が被申請人に対し安城工場製造課第二係溶剤展布担当の作業職としての労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

六、申請費用は被申請人の負担とする。との裁判を求める。

申請の理由

一、(当事者)

被申請人(以下会社という)は、肩書地(略)に本店を置き、医薬品、接着テープ、粘着シートの製造販売を業とする資本金十八億円、従業員約一、一〇〇名の株式会社であり、愛知県安城市二本木町明専一ノ一に安城工場を有し、他に二工場(埼玉、大阪)一三支店(札幌、仙台、新潟、大宮、横浜、東京、名古屋、金沢、大阪、京都、神戸、高松、広島、福岡)を有している。

申請人らは、いずれも会社の安城工場に勤務する従業員(作業職)であり、申請人遠藤隆雄は製造課第三係に属し、裁断(統括)を担当しているもの、同上之孝二は製造課第一係に属し攪拌ゴム練を担当しているもの、同窪田茂伸、同嶋慶一は製造課第二係に属し溶剤展布を担当しているもの、同都築則行は製造課第二係に属し溶剤展布を担当しているものである。

また、申請人らは、会社の従業員で組織する唯一の労働組合である「合化労連ニチバン労働組合」(以下組合という)の安城支部に所属する組合員であり、申請人遠藤隆雄は支部書記長、同上之孝二は支部執行委員、同嶋慶一は中央委員兼支部調査部長、同都築則行は支部組織部長、また同窪田茂伸は職場の活動の中心となっているものである。

二、(本件配転の経過)

会社は、昭和五二年一一月一五日中央労使協議会において組合に対し拡販体制を強化するため工場部門から各支店へ配置転換を実施するとして、安城工場関係については次の如く申入れた。

1 安城工場から二八名を配転する。

2 昭和五三年二月一日を目途に新たな販売拠点を設置し、配転者の一部は一時近接支店(名古屋支店)に勤務する。

3 配転者の配属は名古屋支店六名、名古屋支店への一時配転者二二名とする。

右申入につき一一月二五日から労使交渉の結果一一月三〇日次の如き基本的合意に達した。

「配転問題については従来のやり方に考慮を払い、個々人への説明は職制が行ない、組合を通じての苦情申立があれば会社は誠意をもって労使協議し解決に当る」

また、一二月二日には安城工場、安城支部間においても「工場間配転及び班編成については転勤者が確定した後に組合に連絡し実施する。但し、組合を通じて苦情申立があれば会社は誠意をもって労使協議し解決にあたる」との覚書を締結した。

組合は、今回の配転先と会社の姿勢から組合役員が大量に配転される危険を感じ、同日「従来の慣行にしたがい」「中央執行委員、支部三役の配転は行わないこと、中央委員、支部執行委員及び青婦部役員については組合運営上支障のない様配慮する」ことを申入れた。

一二月八日、配転人員、各職場定員について基本的合意が成立したので、会社より組合に対し配転者名簿が提出された。安城工場の配転者および配転先は別紙その二記載のとおりであり、配転者二五名の内に、現支部書記長を初めとする支部執行委員六名が含まれており、組合攻撃の色彩の濃厚なるものであった。組合は右配転内示者に対し意思確認をしたところ、配転内諾者は二五名中一四名であった。

会社は組合の協定違反の抗議にもかかわらず全員の了解を得ぬまま、一二月一二日に配転者名を発表し、更に内諾者の配転を発表し、右一二名に対し一二月一三日より名古屋支店で勤務することを命じた。

会社は、更に一二月二〇日その余の配転者について小松の配転先を京都支店より名古屋支店に変更したのみで、配転者名簿どおり配転することを前提に一二月二二日から名古屋支店で勤務することを命ずるに至った。

会社と組合との間には昭和四九年七月二六日「配転・転勤に関し……会社は該当者に打診程度にとどめ、労使協議しまとまった後、覚書を交わし辞令を出すものとする」との覚書が締結されており、会社はこれまでこれにもとづいて配転、転勤を実施してきたが、本件配転についてはこれを全く無視し、配転を強行したものである。

三、(本件配転の背景)

会社は経営政策の失敗とナイルショック以後の不況のなかで赤字が累積し、昭和五一年五月大鵬薬品工業株式会社の資本参加を受け企業提携をするにいたったが同年一〇月二三日新経営改善計画なるものを発展し、組合に対し会社再建への協力を求めてきた。昭和五二年一月二九日会社の組織攻撃と「雇用か合理化か」二者択一の状況のもとで、会社再建(再建期間五四年末まで)に関し次の如き協定(以下再建協定)が成立した。

「1 会社は組合の基本的権利を尊重し、労使問題は平和裡に解決する(争議行為は行わない)

2 会社は再建期間中次の三点を保証する。

(1) 会社は組合員の雇用を保障する(希望退職を含め解雇は一切行わない)。

(2) ベースアップ(定昇を含む)は物価上昇見合分とする。

(3) 年間賞与は四ケ月分とする。

3 所期の販売、生産量の達成及び原価低減目標達成のため販売体制、生産体制及び勤務態様の変更等について生産性を高める方向で会社組合協議し、現実に即して弾力的に運営する。

4 当面の配転、転勤については、会社提案に基づき実質的解決の方向で会社組合は協議する。

事前協議協定(昭和四九年七月二六日付、新規設備、技術の導入、その他労働条件に影響を及ぼす諸施策を実施する場合労働条件の維持向上安全衛生条件の優先を基本として事前に組合と協議、決定する)の運用にあたっては弾力的に行う」

5 その後、右再建協定にもとづき生産部門などから営業への配転、転勤、土曜操業、生産態様の変更などを協議し解決してきた。

ところが、会社は昭和五二年七月小林会長自から労務担当となり新労務体制をとった後、同年八月一六日組合に対し、常日勤者の実働時間を一日一時間週五時三〇分延長するなど勤務時間の変更を内容とする申入を行なった。九月八日組合は一日三〇分、週二時間四五分の妥協案を示したが、会社はこれを拒否し九月一三日から業務命令として強行実施することを表明した。(九月九日組合は中労委のあっせんを申請したが同月一〇日会社はあっせんを拒否した。)

組合は、組合員に対し延長時間内の勤務については異議をとどめて就労することを指示するとともに裁判斗争を行うこととし、組合員の無記名投票の結果、六六・七%の支持を得て、東京地裁に延長時間内の就労を強制してはならないとの仮処分を申請した。

ところが、会社は九月二一日以降裁判斗争を中止させるために、全従業員に対し次の如き誓約書に署名することを求めて一斉に働きかけを始めた。

「私は企業再建にかかる会社諸施策の具体的実施にあたり誠意をもって対処し、かつ業務の遂行に当っては誠実に遵守し履行することを誓います」

組合はこれを不当労働行為として愛知、大阪、埼玉の各地労委に救済を申立てた。

本件転勤は右の如き状況のなかで提示され強行されようとしているものである。

四、(本件配転命令の無効理由)

1 本件配転は労働契約の範囲外である。

本件配転命令は、申請人らとの労働契約における労働の種類、労働の場所を変更するものであり、申請人らの同意がなければその効力を生じないものである。

本件配転は、工場の製造部門における溶剤展布等を担当する作業職から支店の営業部門における販売を担当する事務職へ職種の変更を行なうものである。この二つの職種は従業員の資質、経験、労働内容からみて全く相異するものであり、かかる職種への変更は当初の労働契約の範囲に含まれていない。従って、会社は申請人らに本件配転を命ずるにあたっては個別の同意を要するものである。組合が、会社再建のため今回の配転につき配転人員および配転後の工場の職場定員については基本的に合意しながらも、該当者の苦情申立に対し誠意をもって解決すべきことを求めて来たのも、この趣旨にもとづくのである。会社も昭和五二年二月における配転においては、かかる職種変更をともなうものについて労使間で十分協議し、例えば警備から営業への配転は取消すなどの措置をとったが、今回の配転については一方的にこれを強行しようとしている。このため、すでに該当者のうち一名は退職し、一名は配転に応じた後まもなく退職するという結果が生じている。申請人らの内でも、申請人上之孝二は営業に従事するために必要な自動車運転資格を有せず(しかも、自転車にも乗れないため、資格取得の意思と能力がない)、かつ、性格的にも右職種に適応し得ないので、本件配転に応ぜざるを得ないのであれば退職するほかないと考えている。

また、申請人らの内、遠藤を除いては安城工場の作業職に従事するため採用されたものであって、他工場、支店での勤務を本来予定していないのであり、この点においても本件配転は労働契約の範囲外である。(ことに、申請人都築則行は地元安城市出身在住の者であり、労働の場所が安城市であることが就職先の決定につき重要な要素をなしている)

2 本件配転は労使間の協定慣行に反するものである。

配転に関する労使間の協定としては、会社と組合との間には昭和四九年七月二六日付で「配転、転勤に関し、会社は該当者に打診程度にとどめ、労使協議しまとまった後、覚書を交わし辞令を出すものとする」との覚書(<証拠略>)が締結されている。この覚書は労使でまとまるまでの暫定措置とされているが、その後いわゆる再建協定が締結された昭和五二年一月二九日付でも、「配転・転勤については『配転・転勤に関する覚書』及びそれによる労使慣行に則り実施するものとする」との覚書(<証拠略>)が締結され、再確認されており、前記昭和四九年七月二六日付覚書は現在においても有効に存在している。右の昭和五二年一月二九日付覚書の「それによる労使慣行」とは、昭和四九年七月二六日以降の配転において、昭和四九年一二月一〇日付覚書(<証拠略>)、同年一二月一三日付覚書(<証拠略>)、昭和五〇年一月一〇日付覚書(<証拠略>)にあるように労使協議し覚書を締結した上で配転を実施してきたことを指すものである。

また、昭和五二年二月には、今回の配転と同様職種の変更を伴う大量の配転が実施されたが、この時も、昭和五二年二月一日付覚書(<証拠略>)、昭和五二年二月一四日付覚書(<証拠略>)にあるように、労使協議し覚書を締結した上で配転を実施してきたのである。しかも、その過程では、転勤を取消し、内部で配置換をする、希望者をつのり差し換える、配転先を変更するなどの措置がとられたのである。

そして、今回の配転にあたっても、以上の協定慣行の存在を前提とし、会社と組合との間の昭和五二年一一月三〇日付覚書(<証拠略>)で「配転問題については従来のやり方に考慮を払い、個々人への説明は職制が行ない、組合を通じての苦情申立があれば会社は誠意をもって労使協議し解決にあたる」との基本的合意をし、安城工場、安城支部間でも昭和五二年一二月二日付で、「工場内配転及び班編成については転勤者が確定した後に組合に連絡し実施する。但し、組合を通じて苦情申立があれば会社は誠意をもって労使協議し解決にあたる」との覚書(<証拠略>)を締結したのである。

このように、会社は労使間の協定、慣行により労使間の協議、決定をまって本件配転を命ずるべきであるのに、本件配転については、右協議、決定のないまゝこれを強行しようとしているものである。

3 本件は不当労働行為(労組法七条一、三号)として、無効である。

本件配転者名簿によると、安城工場関係では、配転対象者(男子)一五九名の内二五名(一五・七%)の配転であるのに、支部執行委員一七名の内六名(三五・三%)が含まれており、しかもそのなかに支部書記長、中央委員(支部より四名選出)の兼務者、組織部長も含まれている。また、支部統制委員五名中二名が含まれている。組合は会社の再建協力の署名活動に対して、組合員から団結署名を求めたが、この団結署名者六〇人の内、一五人(二五%)が転勤されている。一方この団結署名に応じなかったものはほぼ会社の署名活動に応じたものと考えられるが、その九九名中一〇名(一〇・一%)が配転となったのみであった。

このように、本件配転は組合の活動の中心となるべき役員活動家を多く含み、これによって該当者を組合活動を理由に不利益に取扱うとともに組合弱体化をねらった不当労働行為として無効である。

五、このように本件配転は無効であり、申請人らは従前の職場における労働契約上の権利を有する地位にあり、被申請人に対しこの地位の確認を求める本訴を提起する予定であるが、本件配転に応じなければ解雇などの懲戒処分を受けることが明らかであり、異議をとどめて配転に応ずれば、その職務遂行や組合活動、私的生活の上で受ける不利益が大きいので、地位保全のため本申請に及んだ。

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